2014年12月11日木曜日

その一瞬の時のために強く生き抜く



29年前、私は大学生でした。

友達の親が所有する山荘に泊まりながら、仲間と騒いで夏休みを過ごしていたところに、1機のジャンボ旅客機が音信不通となったと知らせるニュースが飛び込んできました。

この近くに、どうやら旅客機が落ちたみたいだと、少し騒ぎになった記憶があります。

次の日の朝、山の中腹の木々がなぎ倒され、機体が粉々に砕け散った墜落現場の様子が、ニュースで映し出されていました。

1985年8月12日夕刻、日航ジャンボ機が群馬県上野村にある御巣鷹山に墜落し、520名の方が亡くなられました。



その後、ご遺体は、近隣の市の学校の体育館などに移送され、ご家族による身元確認が行われました。

身元確認には、歯のレントゲン写真や治療内容を記録したカルテが有力な根拠となっていました。

近隣の市で歯科医院を営んでいた父が、警察から身元確認作業の依頼を受け、歯科学生であった私も、何ができるという訳ではありませんでしたが、同伴しました。

お焼香の煙りが立ち込める体育館に入ると、まだ身元の判明しない何十もの棺がならんでいました。

棺の中には、原型を全くとどめていない、ご遺体の一部が納められていました。

冷静に、淡々と、ご遺体を1つ1つ確認をされていたご家族の姿が、今も印象に残っています。

身体のほんの一部分の特徴を見ただけで、亡くなられたご家族だと、すぐに判るようです。



この事故で亡くなられた乗客の一人に、河口博次さん(享年52才)という方がいました。

墜落前にダッチロールを繰り返す、想像を絶するパニックとなった機内で、ご家族向けてメモ書きしたメッセージを残したことで、多くの人に知られることになりました。

この文章を読まれて、飛行機事故の悲惨さを、改めて感じた人も多いのではないかと思います。



亡くなる直前の、一人の男性の魂の叫びです。


「マリコ 津慶 知代子 

どうか仲良くがんばって ママをたすけて下さい


パパは本当に 残念だ きっと助かるまい

原因は 分らない 今5分たった


もう飛行機には 乗りたくない

どうか神様 たすけて下さい


きのう みんなと 食事したのは 最后とは 

何か機内で 爆発したような形で

煙が出て 降下しだした 

どこえ どうなるのか

津慶 しっかり た(の)んだぞ


ママ こんな事になるとは 残念だ 

さようなら 

子供達の事を よろしくたのむ


今6時半だ 

飛行機は まわりながら 急速に降下中だ 


本当に今迄は 幸せな人生だったと感謝している」



時を経て、読んでみても、胸に迫るものがあり、涙が出ます。

どんなに怖かったでしょうか。

どんなに無念だったでしょうか。

言葉もありません。

こんな壮絶な状況下においても、家族に想いを伝えようとしたことに、驚きを感じます。

最後まで残るものは愛であり、恐怖にも打ち克つことを、証明されていました。



メッセージを受け取った、ご家族はどう思ったでしょう。

「たのんだぞ」と言われた津慶さんという息子さんの魂に、お父さんの遺志は刻み込まれたと思います。

十字架を背負され、その重さに耐えられなくなりそうな時があったのかもしれませんが、きっと今も約束を果たされていると思います。

もし、私がこの様な形でメッセージを受け取ったのならば、迫り来る死の恐怖の中で、想いを伝えようとした父親に、畏敬の念を持つかもしれません。

「強く生きろ」という、強烈なメッセージを感じてしまいます。



「ママ」と書かれていた、妻である河口慶子さんは、突然の事故でご主人を喪いました。

昨日まで幸せだった家族が、一瞬にして、不幸のどん底に落とされる。

同様の経験をした人でなければ、とても理解できるものではありません。



河口慶子さんは事故後、しばらくしてシルバーバーチの書籍と出会いました。

何ものにもまして、支えてくれたそうです。

ご遺族や出会う人たちに、数千冊を配られたそうです。



その後、それまでの人生とは無縁と思われる世界に、進んでいかれました。

「光の彼方に-死後の世界を垣間みた人々」レイモンド・ムーディ(著)という書籍を、翻訳されました。

平凡な主婦から翻訳家になり、生命の真実を伝える。

ご主人の死と、霊的真理との出会いにより、生き方や考え方が大きく変わっていったと思われます。

今も傍にいてくれて、見守っているという確信がなければ、この様な仕事は決して出来ません。



苦しみ、痛み、悲しみを伴う、苦難や悲劇と言われる出来事を経験して、魂が目覚め、大切なことに気付きますが、河口さんのように、衝撃的で、惨劇とも言える出来事により、たどり着かれる人もいます。

こんな過酷な人生を歩んでまで、魂が目覚めなくても良いと、思われる人も多いでしょう。

魂が目覚め、本当の人生が始まるとしても、このような悲惨な出来事が事前に分かっていたのなら、誰もが回避しようと思うでしょう。

避けて通りたい出来事が生じて、ぎりぎりまで追い詰められて、魂が目覚めますが、誰しも望んでいたわけではありません。

目覚めようとして目覚めるものではなく、身に起きた出来事により目覚めさせられるのだと思います。

河口さんは、ご主人が残されたメッセージを目の当たりにして、魂が呼び覚まされたと思っています。



もし、ご主人がこの事故に出会うことなく、平凡に老後を過ごされている自分と、今の自分のどちらを選ぶでしょうかと、質問をしたならば、どうお答えになるのか、勝手に想像してみました。

きっと、今の自分を選ぶのではと思います。

この事故により、打ちのめされて、どれくらいの涙を流されたのか知りません。

心を癒やす間もなく、3人の子育や生活に追われて、人一倍のご苦労をされているのは間違いありません。

人にはわかってもらえない想いが、山のようにあったと思います。

しかし、ご主人の残してくれた、奇跡とも言えるこのメッセージは、その後の人生で出会う苦難や困難を乗り越えていくための原動力になったと思います。

「今までは幸せな人生だったと感謝している」という、最後の一言に、どれほど救われ、ご主人の深い想いを感じられたのか、分かりません。

ご主人が残されたメッセージで、魂が目覚め、手に入れたものが「生命は霊(魂)であり、永遠に生き続ける」、「他者のために人は生きている」という崇高な真理だったのかもしれません。

魂が目覚め、真理を受け入れて、予想もしなかった新たな人生が始まり、真に生きる意味を成就されて行かれたのだと思います。

悲痛の経験を通して手に入れた、生命の真実を、救いのない悲しみの中で、さまよっている人たちのために伝えています。

人からは、ご主人を早く亡くされて、変わった方向に行ってしまった可哀想な奥さんと、見られているかもしれません。

しかし、ご本人は、事故で亡くなった519名の遺族に、そして愛する人を喪った人たちに向けて、「生き続けている」という真実を伝えることが、メッセージを受け取った自分の果たすべき使命と、感じているのではないでしょうか。



恐怖に打ち克ち、家族への愛を表現したご主人の、魂の高さ、そして強さを、まざまざと見せつけられたのだと思います。

心から、ご主人を尊敬されているのだと思います。

人のために尽くすことで愛を表現し、試練を乗り越えることにより、魂が成長し、魂を成長させることこそが、この世に生まれてきた意味であることを十分に承知され、究極とも言える試練の中で、立派に愛を表現された、尊敬するご主人に、少しでも近づきたいと思い、幾多の試練を乗り越えることが、今生に残された自分には必要と、はっきりと認識されているのではないかと思います。

次の世界で、ご主人と魂と魂で結ばれるために。



先に行った者は、次の世界で上に向かって進むのを止めて、残してきた者が、この世で苦難や悲しみを乗り越えて成長していく姿を、見守っていると思われます。

向こうに行くと、苦しい時、つらい時、悲しい時こそが、残してきた愛する人の魂を成長させる好機となっていることが、はっきりと分かります。

時に涙を流し、時に笑い、時に嘆き、時に喜びながら、無事に乗り越えていくことを、ひたすら願い、見守っていると思います。

人生で起こる、さまざまな出来事を、その人らしく乗り越えて、一歩一歩と近づいてくる姿に、深い喜びを感じているのかもしれません。



しばらくすれば、この世に別れを告げる日が訪れます。

死は断絶の終焉を意味します。

神の公正は絶対であり、悲しい思い、寂しい思い、つらい思いをした人ほど、再会の喜びも大きく、光り輝く日々が待っていることを、ご本人は承知していると思います。


ご主人との約束を果たし、「ママ、よく頑張ったね!」と、やさしく抱きしめてもらう一瞬の時のために、気丈に生きてこられたのかもしれません。

ご主人の様に、最期の一瞬まで強く生き抜き、堂々と、胸を張って、笑顔で再会を果たしたいのだと思います。






参考ページ: 「天国に一番近い場所 ~御巣鷹の尾根に立って~」






























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