意志は感情よりも優先される

登山のドキュメンタリー映像を観るのが好きです。

一つ間違えば滑落して死んでしまう高く険しい山を、黙々と登って行くアルピニストの姿に感動を覚えます。

頂に立った瞬間には、その感激をほんの少し分けてもらったような気持ちになります。

私自身は、そんな危ない山を登ることなどできません。

どうして怖くないのだろうと、いつも思います。

勇気があると言ってしまえばそれまでですが、人間ですからもちろん怖いに決まっています。

地上の人は、肉体、精神（自我）、魂の3つ次元の異なる要素から構成されています。

精神（自我）は肉体と強く結びついています。

そのために、肉体が危険な状況に陥ると、恐怖を感じるようになっています。

肉体は精神からの命令によって動いています。

恐怖を感じると、危険から回避するように、肉体に命令が出されます。

猛毒の蛇が目の前に現れたら、すぐに逃げるでしょう。

もし恐怖を感じなかったとしたら、噛まれて死んでしまうかもしれません。

地上では自分の身を守るために、恐怖は必要不可欠な感情と言えます。

魂から思念が生じています。

生じた思念は、精神で具体化されて、肉体を動かして具現化されます。

地上の人生は、その営みの繰り返しです。

精神は、魂と肉体の間に介在する媒体です。

肉体から入った情報によって、精神からはさまざまな感情が生まれます。

不安や怖れは、基本的に肉体（自分）を守るために生じていますが、精神（自我）が勝手に想像することによって生じることも少なくありません。

予期不安や取り越し苦労などは、その典型です。

不安や怖れを感じるのは、魂よりも精神（自我）が優位になっているからと考えられます。

そのままでは、それらの感情が心に居座り続けます。

魂には、精神を従わせる力が秘められています。

思念の一種である「意志」を持つことによって、精神から生じる不安や怖れを克服することができます。

意志は活動の起点となる力です。

意志が生まれると、精神に降ろされて、具体化されます。

具体化されたものを、やるかどうかの判断が魂によってなされます。

魂がやろうと決めた瞬間、精神は肉体に命令を出して、具現化（実行）されます。

これらの一連の行程が、無意識下で行われていると考えられます。

魂が最上位です。

肉体や精神よりも強いのです。

何かを無心にやっている時には、感情から解放されているはずです。

不安や怖れなどの感情を生じさせる力は、意志を具現化するための力に回されているからです。

容易ではありませんが、何らかの意志を持ち続けることで、自分を苦しめている感情から解放されます。

そうすることで、魂は強くなって行きます。

私たちは、いつの日か思念の世界である霊界に戻ります。

地上で意志を持つことは、向こうの世界で自分に与えられた役割りを果たすための原動力になると考えられます。

私事ですが、仕事に追われていたり、思うように行かないことが続くと、心に余裕がなくなり、感情的になりそうな時があります。

そこで、そうならないために「意志」を持つようにしました。

「心穏やかに今日1日を生きる」

この1文を書いて、仕事場の机の前の壁に貼っておきました。

ただ文字を書いただけでは意味はありません。

意識するだけでも十分ではありません。

目にする毎に、想い（念）を込めて、復唱するようにしました。

朝起きた時も、復唱するようにしました。

自分の意志が、少しずつ精神を動かして、具現化する方向に向かっているようであり、感情が波立たなくなったのを実感しています。

好ましくない「感情」が生まれそうになった時、それを打ち消すために「意志」を持つことは有用と考えられます。

アルピニストが危険な山を登れる理由が、少し判ったような気がします。

「怖い」という感情が、「頂に立つ」という意志によって、打ち消されているからだと思います。

精神では、「感情」よりも「意志」が優先されるのです。